安藤誠より2022年を迎えて

 

自然と共に生きるということ、それはいわゆる森や川などの豊かな原野や野鳥や野生動物たちと共に共生していくということだけではない。誰と一緒にくつろぎたいのか?誰となら楽しいのか?誰が大切なかけがえのない人なのか?どんなお気に入りのウェアで行くか?どんなカメラを持っていくか?

自然と共にというのは普段の人間関係や家族、友人や自分の愛用している道具なども含めてそれらすべてを尊重しながら、豊かな人の手の入っていない川や森、湿原などに踏み込んだり、そこに暮らす野鳥や野生動物に出会ったり。

つまりは日常の奇跡を認識し、それを大切に感謝と共に生きるということでもある。普段当たり前に思っていることこそ、奇跡の連続であるという思い。それは誰もが大切なものを失ったときに自覚することが多い。毎日一緒に食事をしていた家族もそのメンバーは永遠ではないように、鳥や虫の声が聞こえることは決して当たり前のことではないのだ。もしそんな日常の奇跡を感じ、認識できるようになったら自然と共に生きる素晴らしさを実感できるはずだ。

 

 私はガイドとして単に鳥や植物や樹木の名前解説や自然界のエピソードを話すつもりはない。目の前にご縁あって一緒に過ごすお客さんの好きや興味、生き方、夢、未来などに対して自然と共に繋いでいきたいと思う。つまりガイドとは誰がきても同じ話をするのではなく、その人に必要なことをインタープリット(何かと何かを糊付けする)するのがガイドだと考えている。

ときには何も話さない時間や立ち止まること、お客さんの話に多く耳を傾けることも必要なのだ。毎日ガイドの目の前に広がる世界は決して日常ではなく二度とない奇跡の時間でもあるから。動物や野鳥を尊重し、リスペクトする。花や樹木も当然のごとく。そして時間軸、歴史的な目でも目の前の景色の過去と未来をみること。それらガイディングの先、すなわちガイドの着地点は自然もお客さんも共に幸せにすることだ。生きる喜びや元気を。出会いと感動をプロデュースしていく。

 

国立公園の特別保護区や天然記念物エリアの立ち入りは手つかずの自然の凄さや平穏の真骨頂であるのはいうまでもない。1000年以上人の立ち入りを拒んできた場所。自然に対しての知識や経験装備のあるガイドが同行して成立する世界からの学びや感動は大きい。

夜のカヌーは10000年前にも行われていたであろう、しかし現代での再現は簡単ではない。それだけに特別な体験と時間に確実になる。静寂とは?音楽とは静寂を高めるもの。つまりカヌーのパドルから静かに滴る水滴の音は宇宙に響く音楽なのだ。昼間に感じることができなかった世界と感覚がそこにある。闇に漂い、漆黒の世界からきらめく星たちの宇宙を仰ぐ。

気づけばカヌーの周りにも星が漂っている。天の川を下るのも現実となる世界。そこで極上のウィスキーやワインの香りを重ねるのもいい。

 

東北海道の自然に身をおく極上の時間を味わってみてほしい。何が本当に大切なのか、静かに体と心に気力が漲ってくることを実感できるだろう。自然とともに生きるとはそういうことだと思っている。

 

 

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